Studio with a View

ウンブリア州の都市オルヴィエートには、見渡す限り美しいイタリアの風景が広がっています。

夏のさなか、崖の上に立つ街と干し草の俵が点在する周囲の丘陵地帯はセミの鳴き声に包まれ、あらゆるものが輝くようなセピア色に染まっていました。そんなある日、私たちは、アンスキルド・ワーカーというハンドルネームでインスタグラム上で活躍するアーティスト、ヘレン・ダウニーのもとを訪れました。彼女の自宅は、旧市街の外に広がる渓谷を見渡せる場所にありました。2階のスタジオからは、息をのむほど美しいウンブリア州の田園風景を一望できますが、ヘレンの視線の先にあったのは、彼女の作品。それは、アレッサンドロ・ミケーレがデザインしたグッチのウェアをまとった個性的でカラフルなキャラクターでした。彼女はこのスタジオで、ウェアとアクセサリーの40点から成るGucci.com限定〔アンスキルド・ワーカー〕コレクションのためのイラストのいくつかを仕上げていたのです。グッチとこの英国出身のアーティストとの関係は、2015年に遡ります。グッチのクリエイティブ・ディレクターに就任したばかりのアレッサンドロ・ミケーレが、インスタグラムで彼女の作品に目を留めたのがきっかけでした。それ以降、彼女は自身の作品に、アレッサンドロによるグッチのコレクションを身に着けたキャラクターを描いています。

どういうきっかけで絵を描き始めたのですか？
すべてがとても偶発的に始まったのです。最初は思いつきで、数本のペンと少しのインクを用意して、6週間だけ絵を描いてみようと思ったのです。でも、始めたらやめられなくなりました。ちょうど良いタイミングだったのだと思います。私は真っ白い紙を求めていて、まるで恋に落ちたような気分でした！
 
これほどの人気を想像していましたか？
まさか！ 全く想像していませんでした。私がしていることに多くの人が興味を抱いてくれるなんて、思ってもみませんでしたから、いつもとても光栄なことだと感謝しています。信じられないような体験ですし、時々圧倒されてしまうこともあります。でも、チョークとインクと紙を使って、ただ自分らしく続けていることが評価されているのだと思うと、とても幸せな気分です。
 
作品のスタイルはどう進化してきましたか？
初期の作品は、21歳で亡くなった私の最初のボーイフレンドに似ています。意図的ではなく、潜在意識でそうなったと思います。というのも、私は48歳で絵を描き始めたので、それまでのいろいろな経験が作品に現れてくるのでしょう。また、私は自分のスタイルを見つけるのに時間がかかりました。最初はアートを学ぶ人々がするように、他人の作品の真似をしたりしていたのですが、時間を経て、やっと自分自身のスタイルが表に現れてきたのです。それを実感できた時は、素晴らしい気分でした。

"作品にパーソナルなことは投影されていますか？
私はパーソナルなことやものを取り入れるのが好きで、作品にはよくメッセージを隠しています。グッチの作品では、知人から得たインスピレーションや、アレッサンドロのコレクションへの想い、またコレクションと私がどのようにつながっているのかを表現しています。私の作品と彼のコレクションは似ていて、どちらにも小さな秘密や、子どもの頃から大事にしてきた物事が織り込まれています。それは、とてもパーソナルなものなのです。
 
どんなものにインスピレーションを得ていますか？
宗教画から、ロシアのヴィンテージ ポストカード、中国の古い広告ポスター、テューダーの絵画、ケイト・ブッシュやレディオヘッドなどのアルバム ジャケットや歌詞まで、すべてのものからインスピレーションを得ています。なかでも音楽はビジュアルイメージが存在しない分、私自身のイメージを自由に広げることができます。私は明るさの中に、ヘンリー・ダーガーやオットー・ディクスのように暗さも内在する作品が好きです。また、電車の中の人々の顔からもインスピレーションを受けます。誰も見ていないと思っているときの人の表情が好きです。
 
今回のコレクションを初めて目にしたとき、どう思いましたか？
実際に完成したコレクションを見て、私の絵を最高に美しくファブリックに描き出してくれた、グッチのクラフツマンシップに感動しました。グッチとの仕事は、まるでクリエイティブな対話をしているような体験でした。